日テレの良心 藤井アナのコロナ語録

「文春オンライン」特集班 2020/04/23 06:00

新型コロナウイルス感染拡大で閉塞感に包まれた我々の巣ごもり生活。テレビを点ければ不安が募るようなニュースばかり。そんな中で、いま日本テレビ「news every.」のメーンキャスター、藤井貴彦アナウンサー(48)の人気が急上昇しているという。

藤井貴彦アナウンサー 2020年4月21日(「news every.」日本テレビ系より)

© 文春オンライン 藤井貴彦アナウンサー 2020年4月21日(「news every.」日本テレビ系より)  

“藤井コロナ語録”に集まる注目

 注目されているのは、彼自身の人柄を示す“藤井コロナ語録”である。たとえば、緊急事態宣言が出て1週間となった4月14日の放送の言葉。

「2週間後の未来を変えられるように今日もご協力をお願いします。命より大切な食事会やパーティはありません」

 少しユーモアがあって、メッセージがしっかりとある。それが藤井アナの言葉が注目されるゆえんだ。

 安倍晋三首相が新型コロナウイルスに対する経済対策として、所得が減少した世帯向けに30万円を給付する当初案を見直し、所得制限を設けず国民に一律10万円を給付する考えを表明した4月16日の翌日はこんなひと言。

「皆さんの手でしか感染は食い止められません。私たちの努力が、この事態を終息することができるのです。外出を自粛し感染拡大を防止しようとする皆さんの努力は10万円より価値のあるものです」(4月17日)

 緊急事態宣言の全国拡大から初めての週末を経た月曜日には、各地で行われている外出自粛の取り組みに関するニュースを受けて、こんなコメント。

「今、緊急事態宣言を受けて自分を律している人ほど、観光や遊びに出ている人を腹立たしく思うかもしれません。しかし皆さんのような人たちがいるからこそ、欧米のような医療崩壊を防げています。今は皆の足並みが揃わなくても、その姿勢は必ず誰かの行動を変えるはずです。そして全国にはまだ感染者の少ない地域も多くあります。不用意に生活エリアを越えた移動をしないこと。これが、誰かの故郷を守ることに繋がります」(4月20日)

 4月7日の緊急事態宣言から2週間が経った火曜日は、休業を迫られている中、生活のために開店している飲食店や施設の特集を受けてこうコメント。

「緊急事態宣言を受けてお客さんが激減する中、お金儲けをしようと思って開けているお店はないと思います。ですから今大切なのは、生活のために開けているお店への批判ではなく、お世話になってきたお店への応援ではないでしょうか。電話1本、LINE1通でも、何が自分にできるか気付けると思います。自粛要請の限界や矛盾を店主に押し付けないためにも、皆さんの温かい一言が必要です」(4月21日)

 こうした藤井アナの熱いメッセージはツイッターでもトレンド入りするほどの反響を呼んでいる。「救われる」「ほんとに心に刺さる」「どんな政治家よりわかりやすく心に響く」「1日のストレスが和らぐ」「気持ちが少し静まった」などなど、多くのコメントが寄せられている。

同期の羽鳥アナウンサーとは“陽と陰”の関係

 藤井貴彦アナは東京都新宿区出身。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、1994年に日本テレビに入社した。同期はいまや人気トップのフリーアナウンサー、羽鳥慎一(49)だ。

「羽鳥アナが182センチメートル、藤井アナが181センチメートルなので、新人時代は『ツインタワー』の愛称で2人は呼ばれていました」(日テレ関係者)

 だが、2人の辿った道は対照的。まさに陽と陰だった。

 入社当初から羽鳥は報道にバラエティに大活躍。日本テレビの朝の看板枠だった「ズームイン!!SUPER」の司会を8年にわたり担当し、40歳となった2011年には華麗にフリー転身。いまや自分の名前を冠した「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)が視聴率同時間帯トップ。「週刊文春」恒例の好きなアナウンサーランキングでは、2017年は3位、2018年と2019年は2位と常にトップスリーをキープしている。

 対して藤井アナは地味で目立たないアナウンサーだった。入社後は「ニュースプラス1」のスポーツキャスター、ニュースキャスターなどを担当。まさに堅物で、周囲からも“接しにくい”人物だと思われていた。「昔の藤井アナのキャラは今とは全然違う」と語るのは、若手時代を知るテレビ業界関係者だ。

「正直、若手の頃はあまり感じのいいタイプではなかった。後輩やスタッフの面倒見も良くなかった。プライベートを明かさないことでも有名で、ご結婚して小学生くらいのお子さんもいらっしゃいますが、ごく近しい人以外には家族の話すら一切しない。『アナウンサーは芸能人ではない。プライベートをやたらに明かす必要はない』との考えなんだそうです。結婚したときも周囲に積極的には知らせなかったようです。いい意味でも悪い意味でもドライだった」

1999年「ウリナリ!!」ドーバー海峡横断部に参加

 その堅物キャラがバラエティでハマることもあった。当時、高視聴率をとっていた「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」の人気企画“ドーバー海峡横断部”。1999年のことだ。

「内村光良をリーダーに、ウド鈴木、よゐこ濱口、堀部圭亮、藤井アナと元プロテニスプレイヤーの神尾米さんが、イギリスとフランスを隔てる約34キロメートルのドーバー海峡をリレーで横断するという企画です。企画開始時のメンバーが次々脱落し、新たな部員として参加したのが当時27歳だった藤井アナでした。

 横断実現までに2年ほどかかった長期コーナーだったので、横断実現した頃にはメンバーが相当仲が良くなったとか。『横断成功したら合コンをしよう』という内村さんのかねてからの提案で、藤井アナが仕切って三宿にあるダイニングバーで合コンを開催したようです。女性陣は藤井アナが声をかけ、CAやOLが集まったとか。でも『あまり盛り上がらなかった』と内村さんがラジオで明かしています」(同前)

転機は東日本大震災 被災者に寄り添い続けた報道

 その後はシドニーオリンピックの担当、「ズームイン!!サタデー」の4代目メーンキャスターを務めた後、2010年に新番組として誕生した「news every.」のメーンキャスターに陣内貴美子アナと共に就任した。これが藤井アナの転機となる。

「『news every.』がスタートして少し経った頃、藤井アナは別人かと思うほど性格が変わって、“心遣いの代名詞”みたいな人になったんです」(アナウンス室関係者)

 そのきっかけとなったのが、2011年に起きた東日本大震災である。藤井アナはリポーターとして真っ先に現地に向かい、被災者取材にあたった。

「地震と津波の壮絶な痕跡が残る被災地でのリポートはそれだけで精神を削られます。『自分がやっていることは正しいのか』『遺族を前にしてどんな声をかければいいのか』、あの場に行ったメディア関係者なら誰しもが考えたでしょうが、目まぐるしく変わる状況を前に、余裕のないリポーターが多かった。しかし藤井アナは、どんな時でも被災者に寄り添うことを忘れない報道姿勢を貫いていました」(同前)

 その姿勢は画面にも表れていた。

「藤井アナは、被災者にインタビューする時もわざわざ自分の手袋を脱いで、物資が十分に届いていない被災者の気を悪くしないよう配慮しながら、涙をこらえて話を聞いていました。家の中で亡くなった父親を、息子さんが運び出す場面にも遭遇したのですが、藤井アナはリポートの手を止めて、率先して軽トラックに遺体を運ぶ手伝いをした。出発するトラックに手を合わせている姿や、息子さんが感謝する様子も放送されていました。普通のリポーターなら、息子さんの心情を聞き出して、神妙な顔つきでコメントを述べて終わりでしょう。

 彼はカメラの回っていないところでも被災者に寄り添って、ずっと手伝いをしていた。多くのメディアが被災地を後にしてからも藤井アナは現地に残っていました。そのことが彼を大きく変化させたのでしょう」(同前)

今や番組スタッフに愛される“キャプテン”に

 番組スタッフは、今ではすっかり“藤井派”だという。秘密主義だった藤井アナが“心の広いキャプテン”に変わったのだ。番組スタッフが証言する。

「今から5年以上も前のことだと思いますが、『news every.』のスタッフに藤井さんが差し入れを持ってきてくれました。それが奥さん手作りのパンだったのです。スタッフは皆喜んで、『なんて良い奥さんなんだ!』との話題で持ちきりに。パンも絶品でした。

 藤井さんは『番組が船だとしたら、自分はその船のキャプテンだ。キャプテンについてきてくれ。一緒にがんばろう!』と言って、私たちスタッフを先導してくれています。だからみんな安心して藤井アナについていくんです。番組スタッフで飲みに行くこともあるのですが、藤井アナは必ず最後まで付き合ってくれる。ずっと自分のペースでお酒を飲んでいて、酔ったところは見たことがありません」

 以前は融通が利かないとも思われていたが、“番組の顔”としての円熟味を増しているという。

「アナウンサーの好感度ランキングでは毎年ランク外であることを、藤井アナは『今年も入ってない藤井です』とネタにするんです。それをスタッフ皆でいじっています。藤井アナがいるだけで空気がピリッとするような威厳ももちろんあるのですが、自虐ができる愛されキャラみたいなところもあるんです」(前出・日テレ関係者)

「アナウンスの天才」「日テレの良心」の声も

 別の番組スタッフによれば、あるとき藤井アナは「俺は羽鳥みたいにはなれないから、コツコツやるしかないんだよ」と微笑んで洩らしていたという。

「でも、それは謙遜だと思いますよ。藤井アナは報道内容を正確に伝えた上で、原稿にはない自分の言葉をそっと添えるように言える。速報が急に入ってきても生放送の尺にぴったり合わせて言葉を組み立てているんです。“アナウンスの天才”と言っても過言ではないです。あんなアナウンサー、局内にも他局にもいないですよ」(同前)

 日テレといえば、懇意のスポンサー社長から“利益供与”を受けていた男性アナもいたが、藤井アナは「日テレの良心」と呼ばれているという。「週刊文春」が実施した好きな男性アナウンサーランキングでは、2017年に15位、2018年に8位とじわじわと順位を上げている。2019年は残念ながら圏外だったが、国家的有事に真価を発揮した2020年のランキングはきっと——。

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